前回の指摘により実行されたこと
- 初産群を先に搾るようになった。
- スタンチョンのロックを早く外し、搾乳後すぐにエサを食べられるようにした。その結果、牛の動きは格段に良くなり、牛は搾乳後に喜んでスタンチョンに入り、採食していた。
更なる問題点および改善策の指摘
飼料管理および給餌方法
- 牛の動きがよくなったことで、牛舎の両サイドにはTMRをもう少し多めに給餌した方が良い。
- 牛は両端のエサから食べたがるという本来の習性のため。
- 前回より跛行が増え、雰囲気が悪くなっている。
- これは乾物摂取量の増加、エサ押しのタイミングなど何か問題が起きている事が予測される。
- 検定成績では泌乳量の持続が弱いこと、牛の動きが良くなったことから TMRの濃度を濃くしても良い状況になったと考えられる。
- TMRの発熱が見られ、ビール粕によるものと考えられる。
- ビール粕は発熱や腐敗のリスクがありハンドリングも難しい。本当に安いのかリスクコントロールが必要である。
- 残飼の中にスーダンの茎が残っている。
- これは刈り遅れのスーダンであるため嗜好性を落としていることが原因。実際に噛んでみるとオーツ乾草とはかなり差がある。
- スタンチョンのリリースタイミングがまだ遅く牛が顔を上げだしている。
- 牛はある程度食べたら、水を飲んでポジションを変えてまたエサを食べ出す。
これはルーメン内の有機酸濃度が上がる事による浸透圧が影響している。
現状ではスタンチョンで拘束している時間が長過ぎるため、このタイミングを逃している。 - 食べ終わった後に良い反芻をしていない。
- 食べ過ぎて腹一杯になり、具合が悪いのではないかと思われる。
- 乾乳牛も同じ並びでロックされているので拘束時間が長い。
- 乾乳群が別にロックできるようラインを分離し、乾乳牛が自由に食べ、リラックスできる時間を増やす事が必要。
- 夜のエサが足りず、腹の減った状態で搾乳を終えて2時間半も「ドカ食い」をしている。
- これは搾乳後に集中して食なければならないように牛が反応してしまっている。「ドカ食い」をさけるため、徐々に給与量を増やす必要がある。「ドカ食い」がなくなれば飼料設計の調整が可能になってくる。
搾乳
- デッピング剤を一頭毎に捨てていない。
水槽の管理
- 現状では毎日きれいにしていない。
- 掃除をするのはきれいにする事は違う事を理解する。
来月までに改善する作業
①エサ押しのタイミングと方法
エサ押しは搾乳後、牛が戻って次の群を搾るとき、牛が頭を上げ始める前に押す。 経産牛群では搾乳から戻ってきた牛がスタンチョンの手前から食べだしているので、後から搾乳した牛がエサを食べに行くのに邪魔になっている。手前にはエサを置かない。
②ミキシング順序・攪拌時間変更(選び食いの回避)
- 目標:
- 残飼にスーダン茎軸が目立たないようにする
- 対応策:
- スーダン茎軸の切断長が5cm目安となるように攪拌時間を調整
- 注意点:
- 他の粗飼料の切断長は当面今のままで良いロットが変更になったら攪拌時間はまた変える
③給与量の段階的な増加(固め食いの回避)
- 目標:
- 一回あたりの採食量が減って採食回数が増える(トータルのDMIは微増)
- 対応策:
- 給与量を徐々に増加
(夜1頭分増量⇒様子見(3日間)⇒朝1頭分増量⇒様子見(3日間)以後繰り返し) - 注意点:
- ①のミキシングを対策してから対応のこと
増給により食い止まりが来るとのことなので慎重に進めること
④飼料設計の見直し 大古場&コンサル氏で対応
泌乳のピーク、泌乳初期のSNFが低い
- TMRのエネルギーレベルが低い、またはDMIが少ない
- SNF低下の主因は乳タンパク低下だが乳糖も低い⇒可消化炭水化物の不足?
- これは繁殖成績に影響するので今後の動向に注意が必要
⑤繁殖成績
- 牛の行動体系がおかしいので繁殖行動が不明瞭では?
- 上記と同様の原因で繁殖成績が不調ではないか(次回の妊娠鑑定の結果を検討)
コンサル氏のコメント
この農場は考え方を変える必要がある。物事には全てに理由がある。牛の動き、作業、乾草や配合を使う理由、粗飼料の割合など、よく考えればおかしなことはいっぱいある。しっかり考えて、自分で気づいて欲しい。
変わろうとした時には壁にぶつかる。例えばスタンチョンのロックを早く外す事で乳量が増えても、これによりアシドーシスや繁殖がボトルネックになる可能性がある。
常に物事に理由がある事を忘れず、改善の後のあらたな問題発生まで予測する事が大切。
まとめ
これまで2ヶ月の訪問でこの農場では牛を無駄に立ちっぱなしにさせ、牛に負担をかけて搾っている事が分かりました。これは酪農の経営の中で最も大切なお金に換えるべき作業をおろそかにしている事につながっており、できる事から問題の改善をしていく必要がありそうです。牧場主の牛への当り、扱いは良いと思われますが、現状では当たり前の事ができていないとコンサル氏から評価されています。
これらの事は搾乳前からの農場の作業に立ち会ったことで初めて分かったことも多くあり、通常の営業活動だけでなく農家さんの一日の作業の流れの中でしか分からないことにも目を配って仕事を進めるきっかけにしたいと思います。
そしてこの農場の問題を改善するためには、今まで以上の信頼関係が大切です。 お互いに言いたい事がいえる関係を作り、ステップアップを計りたいと思います。
2012年6月9日
『農場の問題改善とトレーニング その1』はこちら。>>